鹿児島家庭裁判所鹿屋支部 昭和48年(家)33号 審判 1974年8月16日
申立人 田中美子(仮名)
相手方 田中一郎(仮名) 他四名
主文
1 別紙遺産目録(二)中、2のイの家屋及びその敷地である同目録(二)の1の宅地中別紙添付図面イロハニイの各点を結んだ直線内の部分一三一平方メートルは申立人の取得とする。
2 相手方ら五名は申立人に対し連帯して各自金一〇万二〇〇〇円をこの審判確定の日から三ヶ月内に支払え。
3 同目録(二)の一の宅地中、第一項で申立人の取得することとなつた部分を除くその余の部分、二のロの家屋及び三乃至五の各物件はいずれも相手方ら五名の共同取得とする。
4 第一項の宅地の換地処分に伴う清算金は相手方ら五名の連帯負担とする。
5 申立人が、第三者において現に占有使用中の第一項の家屋の返還を受けるまで、申立人に対し同目録(二)二のロの家屋の明渡を猶予する。
6 本件審判費用金五万七一二五円中金一万九〇四〇円は申立人の負担とし、その余は金七六一七円宛相手方ら五名において負担するものとする。
理由
1 本件申立ての要旨
申立人は被相続人田中俊光の後妻であるが、被相続人は昭和四一年六月一五日死亡し、申立人及び先妻の子である相手方らがこれを相続した。そして遺産は別紙遺産目録(一)記載のとおりであるが、これについて申立人及び相手方らとの間でその分割協議が調わないので法律上適正な分割を得たく本件申立てに及ぶ。
2 当裁判所の判断
(1) 関係戸籍謄本によれば被相続人は昭和四一年六月一五日死亡し、後妻である申立人及び先妻の子である相手方らがこれを相続したことが認められる。
そして同人らの相続分は申立人が一五分の五、相手方らが各一五分の二である。
(2) 当裁判所の認定する本件遺産の範囲は以下に述べるとおり別紙遺産目録(二)記載のとおりである。
イ 相手方田中春男に対する当裁判所の審問の結果、関係土地家屋の登記簿謄本、不動産鑑定評価書等によれば、申立人主張の遺産(別紙遺産目録(一)記載のもの)のうち一乃至五の物件についてはその主張のとおり遺産と認められ、かつこれが分割時の価額は同目録(三)記載のとおりであることが認められる。
ロ 七の定期預金について、遺産分割の対象なるものは分割当時存在するものに限られるところ、前記田中春男の審問結果及び宮崎銀行○○支店に対する照会回答によれば、右の定期預金は相続開始当時申立人主張のとおりの額で存在したことが認められるが、満期後これが全額が払戻されたうえ、相手方山本和子及び同渡辺智子においてその半分ずつを取得したことが認められ、現存しないからこれは分割の対象とはなり得ないものというべきである。
ハ 前記田中春男に対する審問の結果及び鹿児島銀行○○支店に対する照会回答によれば八の普通預金は相続開始当時九万三七四三円あつたが、その後本件家屋の維持管理にあたつてきた相手方田中春男においてこれが家屋の修理等のためにその大部分を引き出しており、現在一三一九円を残すにすぎないことが認められる。そして金額こそ少額であるがこれが分割の対象となることは明らかである。
ニ 九の貸付金債権についてはこれが存在することを認めるに足る証拠はない。尤も前記田中春男の審問の結果によれば昭和三九年頃相手方田中春男及び被相続人各所有家屋がいずれも○○市の都市計画によりその移転を余儀なくされ、これに対しこの両者の補償として総額金九九万一五九七円の移転補償金が支払われたが、被相続人においてその全額を自己の新家屋(遺産目録(二)三ロの家屋)建築のため費消したため後に工事を始めた同相手方家屋の建築費用に不足を生じ、それ故被相続人から同相手方に対しその頃さきの同相手方補償分として金二〇万円が支払われたことがあることが認められる。しかしこの金員は同相手方が被相続人から借受けたものではなく、本来同人が取得すべきものとして授受されたものであることが明らかであり、これが分割の対象とならないことは多言を要しない。
ホ 六の家賃債権について。申立人主張の家賃債権は相続開始後分割時までの家賃債権のことと思われるが、分割前であつても共同相続人全員に異議なく処分又は費消されてしまつているものについてはもはや分割の対象となし得ないことは前記のとおりであるところ、山本和子に対する横浜家庭裁判所の調査報告書、申立人に対する当裁判所の審問結果及び前記田中春男の審問の結果によれば、被相続人はその生前同目録(一)の三のイ及び五の各家屋を他に賃貸し、前者については月額八〇〇〇円(但し相続開始後間もなくして月額九〇〇〇円に増額)、後者については月額金四五〇〇円合計金一万二五〇〇円の賃料を得ていたが、相続開始後は、申立人を含め本件相続人全員の異議なく、本件遺産の維持管理にあたつてきた相手方田中春男においてこれらの賃料を月々受領し、このうちから申立人に対しその生活費として、昭和四一年七月から同年一二月までの間毎月一万二〇〇〇円宛、昭和四二年一月から昭和四三年一二月までは毎月六〇〇〇円、昭和四四年一月以降現在まで毎月八〇〇〇円宛やり残りは相手方田中春男においてこれを取得してきた(そして同相手方において本件遺産に対する公租公課の支払その他本件遺産の維持管理等の用途にその大部分費消し残額(現在高二万一〇〇〇円)をこれらの用途に備え妻田中由美子名義で預金している)ことが認められる。これによれば右の家賃債権はもはやすべて処分されその帰属が確定ずみであり、本件遺産分割の対象とはならないものというほかはない。
ヘ 以上からして本件遺産の範囲を別紙遺産目録(二)のとおり確定する。
(3) 相手方田中春男に対する当裁判所の審問の結果、同田中一郎、同田中治、同渡辺智子に対する東京家庭裁判所の調査報告書、山本和子に対する横浜家庭裁判所の調査報告書、それに関係る籍謄本によれば、申立人を除く相手方らはいずれも本件遺産の形成及びその維持に相当の寄与をしていることが認められるのに対し、申立人は後妻で被相続人との結婚同棲期間もその死亡前僅か一年余りに過ぎず、本件遺産の形成には殆んど貢献していないことが認められる。
ところでこのように共同相続人中一部の者が遺産の形成に特別に寄与している場合遺産の分割に当たりこれをどのように斟酌すべきかは重要かつ困難な問題であり、一部にはこれらの者の寄与分を算定評価し、これを遺産から控除し残部についてのみ分割の対象とするとが許されるといつた考え方もあるが、当裁判所はかかる考え方は実定法上の根拠を欠き到底採り得ないものと考えるが、しかし少くとも遺産の形成に特別の寄与した者のこれが分割についての希望意見に対しては充分な配慮が払われて然るべきものと考える。
ところで相手方田中春男らは本件遺産目録(二)中二のロの家屋とその敷地、その西隣りの現在相手方田中春男の所有家屋が所在する敷地を希望しているから、これらを相手方らに取得させることとするが、右の二のロの家屋には現在申立人が居住しているのでこれが明渡を要するところ、四の家屋はもともと被相続人において三分の一の持分権を有するにすぎないものであるから申立人にこれが持分を取得させ、他の権利者である相手方らとの共有とすることは後日の紛争の種をまくようなものであるから妥当でなく、従つて申立人には結局残る二のイの家屋を取得させることとする。そしてこの家屋は右審問の結果等によれば現在他に賃貸中であるから申立人においてこれが返還を受けるまでは二のロの家屋の明渡を猶予することとする。
ところで申立人の相続分は前記のとおり三分の一であるところ、本件遺産の総額は金一一八八万〇六四七円(本件遺産の評価額は合計金一二一三万五三一九円であるが、清算金徴収台帳(写)及び同明細書並びに田中春男に対する当裁判所の審問結果によれば被相続人において遺産目録(二)の一の宅地を換地として取得するに際し、区画整理施行者に対し金二二万三三五三円の清算金を支払うよう義務づけられ、同人において相手方田中春男を納入代理者と定めこれを昭和四七年から昭和五一年までの間に一〇回に分け割賦弁済することを約し、この間の利息も合わせて合計金二五万四六七二円支払う義務を負つていることが認められるからこれを控除すれば、本件遺産の総額は結局金一一八八万〇六四七円となる。)であるからこの三分の一に相当する金三九六万(千円未満切り捨て)が申立人の取得分であるが、前記のとおり申立人に取得させることとなつた二のイの家屋及びその敷地の価額は伊藤己代治作成の地積測量図及び前記不動産鑑定評価書によれば金三八五万八〇〇〇円(千円未満切捨て)でなお金一〇万二〇〇〇円不足するからその余の本件遺産全部を相手方らの共有取得(相手方ら内部においては分割協議が容易に調うことが期待されるので共有とする)とし、前記清算金支払義務を相手方らに負担させることとする代わりに右の金一〇万二〇〇〇円を相手方らから申立人に支払うよう命ずることとする。そしてこれが支払期限はこの審判確定の日から三ヶ月内とするのが相当である。
そして審判費用金五万七一二五円(呼出費用等金三一二五円、鑑定及び測量費用五万四〇〇〇円)は申立人においてすべて立替えているが、これについては各自相続分に応じて負担させるのが妥当であるから、このうち三分の一に相当する金一万九〇四〇円は申立人の負担として、このうち一五分の二に相当する金七六一七円は相手方らの各負担とする。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 松井賢徳)